人気ブログランキング | 話題のタグを見る
瀬戸の材料屋
瀬戸の材料屋_b0129777_23175749.jpg
 

 釉薬の材料を瀬戸に買いに行った。

 長石や硅石やカオリンなど、釉薬に使うための原料を、いつも僕は瀬戸の小さな店で買っている。

 その店は商店街のはずれにある古い小さな店で、ガラスの嵌った木戸の上にある緑と白の縞模様のビニールのひさしは破れてボロボロだった。
6畳ほどの店内は薄暗くて、外からでは営業しているのかいないのか判別が付かない。
それでも中へ入って店の奥に声をかければ、痩せて小さな60代くらいのおじさんが出てきて、
にこやかにというわけではないけれど、けして無愛想ではない様子で接客をしてくれる。
僕の事も顔を覚えてくれてはいるが、いつも他の陶芸家と名前を混同している。
店は小さいのに僕が使う釉薬の原料は一俵単位で安くそろうし、特殊な原料もビニール袋に小分けしてくれるのでとても重宝していた。

 今日もいつものように店の前にトラックを路駐すると、ガラスの木戸の向うにカーテンがかかっていた。

 今まで良く見なければ開いているかわからないものの、平日に閉まっていたことはないので、
開いているのかもしれないと、木戸を横に引いてみたが、しっかりと鍵が閉まっていた。
張り紙も何も無く、たまたま休みなのか店をたたんでしまったのかもわからない。
経営的にも、おじさんの体調的にも閉店したとしても何の不思議もない様子だったのだが、この店がなくなるのはとても困る。

 材料は探せば他の店でも手に入るのだろうけど、僕はこの店に来るのが好きだったのだ。
焼き物の街である瀬戸、それに隣接した多治見と土岐にはこの手の店が結構ある。
良いものが安く手に入るが、あらかじめその存在を知らなければけして見つけられないような店。陶芸仲間の口伝えにしか知りえないような店達だ。

住宅街の中に紛れ込んでいる桐箱屋。
工業団地の裏の倉庫の奥にある塗り蓋屋。
貴重な天然の木灰が手に入る陶磁器組合の事務所。

 こういった店は場所を詳しく聞いて行っても、見つけ出すのに苦労する。
しばらく行かないと場所がわからなくなってしまう。人に教えようにも説明しづらい。
しかし、こういう店に行くこと自体が、必要なモノが安く手に入るということよりも、何かワクワクするのだ。

 以前ハリーポッターの第一巻を読んだ時、魔法の道具を売っているダイナゴン横丁というのがでてきた。そこを訪れた主人公のハリーが、魔法使いの仲間入りをしたという嬉しさでワクワクしている様子が書かれていたが、その気持ちと少し似ているような気がする。

 瀬戸やその周辺の焼き物の町は、陶器祭りの時期を除いては観光客もまばらで、むしろ寂れた感じはあるが、そんな渋い店がところどころに埋もれているのが、僕は結構好きだ。

 瀬戸の小さな材料屋が閉店したのでなければいいけれど。



 
by gadget-pottery | 2008-04-25 21:43 | 陶芸
<< 美濃焼き陶器まつり 何故blogを書くのか >>